「アニメ制作者に恩返しを」熱い想いが生んだ新サービス
アニメ制作者に恩返しするために、自分ができることは何だろうー。
YoKIRINの生みの親である奥村さんは、筋金入りのアニメファン。自身を「オタク」だといいます。
幼い頃、現実世界を忘れさせてくれる鮮やかな映像や、困難に立ち向かう主人公の姿に勇気をもらった経験が、今も奥村さんを動かす原動力の一つです。
「多くのアニメファンと同じく、今自分がここにいるのはアニメがあったから。この感謝の思いをクリエイターの方にとって役立つ形で届けられないだろうか」
個人としてだけでなく、キリンという会社を使ってBtoBの形でやれることはないかと模索した奥村さん。YoKIRINを企画し、社内の新規事業公募に応募しました。
当初は「キリンがアニメ制作会社のサポート事業を行う意味は?」という疑問の声も挙がりました。
しかし、審査が進むにつれ手ごたえを感じていったと奥村さんはいいます。
最終的に経営層の方々からは「健康というキーワードを通して社会に価値提供するというキリンが目指す姿を体現している」と評価を得ました。
こうして、YoKIRINはキリンホールディングスの新規事業として、世に送り出されることが決定しました。
「エモさ」を映像でどう表現するかが選定軸だった
奥村さんは、YoKIRINのブランディング動画を制作するため複数の制作会社に提案を依頼。コンペの結果、プルークスの受注が決定しました。
「メインビジュアルに落とし込んだ表現意図やニュアンスを十二分に汲み、動画で表現してくださったのがプルークスさんでした」(奥村さん)
奥村さんがメインビジュアルで追求したのは「エモさ」という心象風景。
「エモ」は、郷愁や美しさ・懐かしさといったポジティブな感情と、もの悲しさや儚さといったネガティブな感情を包括しています。
相反する感情がグラデーションとなっているさまが「エモ」であり、かつ、ネガティブな感情がポジティブに変わることで心が揺さぶられることが今回の表現における「エモさ」の根源だと奥村さんは語ります。
動画は全体的に光度が抑えられ、田んぼのあぜ道や電線・瓦屋根など、日本の原風景ともいえる風景を朝焼けが包み込んでいます。早朝のひんやりとした空気を肌に感じ、土と草の香りが見る人を包み込むような映像です。
「自分たちを育んでくれた作品/クリエイター」を大いなる自然として表現し、「恩返し」を願う少女をそこにたたずむちっぽけな存在として対比的に描く。その関係性が物語性を予感させているといいます。
また、動画では「ループ」という描写が使用されています。アニメーターが「現実世界」と「アニメの中の世界」を、そして「過去」と「現在」を行き来するような仕掛けです。アニメ制作者とファンとの「つながり」というサービスの根幹も表現しています。
「郷愁的といっても、もの悲しいものではなく、過去から未来へ進んでいくような前向きさを表現したいと思っていました。プルークスさんが提案してくださったループには、そんな未来への希望が感じられました」(奥村さん)
万人に受けなくていい。コアなアニメファンに刺さる解像度を目指す
奥村さんは、万人に受けるようなわかりやすくサービスのメリットを謳うような動画は求めていなかったといいます。
「今回のブランディング動画は『流行のアニメはなんとなく知っている』といった広い層に向けて作っていません。推しの制作会社があるような、コアなアニメファンに伝わればいいという解像度を目指しています。結果、万人受けを狙って作るよりもずっと意味のある動画になったと思います」(奥村さん)
動画でサービス内容やメリットを伝えず、郷愁を呼び起こす抽象的なものにする。
そこには、YoKIRINの動画を見たコアなアニメファンがSNS等で共感や感想を発信してもらえたら、という意図もありました。
ちょうどいい解像度を目指すために、プルークスと奥村さんの間で何度も細かい調整が行われました。
抽象的な世界観の中にリアリティを
動画ではリアリティも追求されました。動画に登場する人物は、アニメ制作に携わるスタッフという設定です。机の周りにはマウスやキーボードなどが並び、その中に目薬やクマが描かれたマグカップがあります。
「機能性重視のガジェットが並ぶ中に1つだけ可愛らしいマグカップ。このありそうだね感が大事かなと。アニメファンや実際にアニメを作っているクリエイターがこの動画を見ても『これは嘘じゃないな』と思ってもらえるような描写を目指しました」(奥村さん)
YoKIRINは、映像制作のプロフェッショナルに向けたサービスでもあります。リアリティも大切にしなければ共感は得られないと奥村さんはいいます。そのため映像のクオリティ面で何度も修正を繰り返しました。
「面倒なフィードバックをたくさん投げましたが、私のイメージを的確に捉え、形にしてくださったプルークスさんにはとても感謝しています」(奥村さん)
こうして、奥村さんの熱い想いが詰まった動画が完成しました。
公開翌日のアクセス数は1.5倍に!
YoKIRINの動画は、Xと映画館で公開されました。奥村さんも、リリースされた動画を見るために実際に劇場に足を運びました。
PR動画がスクリーンに映し出されるのは、上映前のギリギリスマホを使える時間帯。YoKIRINの動画が流れ終わると同時に、YoKIRINを検索しているような方が複数見られたそうです。
サイトのアクセスも公開前日と比較するとグッと伸び、デイリー比較で平均約1.5倍に。奥村さんが動画の効果を実感した瞬間でした。
YoKIRINの今後の展望
左:弊社プランナー 伊藤 右:奥村さん
今後は、Webコンテンツだけでなくアニメイベントなどリアルの場も活用しながら、YoKIRINの存在を少しずつ広めたいと奥村さんは考えています。
「将来的には、アニメだけにとどまらず、様々なコンテンツを制作する人たちとその創作活動を支えるファンという構図が日本に根づいたら嬉しいですね」(奥村さん)
幼い頃アニメから勇気や希望をもらったように、今度は自分がYoKIRINを通じて少しでもクリエイターたちの力になりたい。そして、ものを作る人たちを支える文化が、日本中に広がっていくことを願っていると奥村さんは力強く語ってくれました。
YoKIRINのPR動画制作を通して、プルークスとキリンホールディングス様は二人三脚で歩んできました。
奥村さんが抱く「エモさ」という抽象的なイメージを共有し映像として具現化するために、綿密なコミュニケーションを重ねた結果、ご満足いただける映像が完成しました。
フィードバック一つひとつに真摯に向き合い修正を重ねたプルークスの柔軟な対応力と、クライアント様の想いを深く理解しようとする姿勢を評価いただいたと感じております。
奥村さん、ありがとうございました。